Solana インフラのマルチリージョン化におけるメリットと最適化について
Solana インフラのマルチリージョン化におけるメリットと最適化について

私達はこれまで、リーダーバリデータの近くにいることがどれほど重要かを繰り返しお伝えしてきました。とはいえ、Solanaはグローバルに分散され、リーダーはつねに入れ替わります。だからこそ、一つの都市に腰を据えるだけでは届かない現実があり、インフラをマルチリージョン化する意義が生まれます。本稿では、エポックやリーダースケジュールの基礎から、実際に「近い距離にいる」ことを判定し、運用へ落とし込むまでを、現場感を込めて整理します。
エポックとリーダースケジュールを正しく掴む
Solanaでは、時間をスロットという単位で刻みます。おおよそ400msを1スロットとし、ひとまとまりの期間をエポックと呼びます。エポックはスロットの集合体(合計432000)で、概ね2日間程度の尺感です。エポックの進行状況はRPCの getEpochInfo で把握できます。ネットワークの現在の処理状況やスロットの進み具合は getRecentPerformanceSamples が役立ちます。各エポックの開始時にリーダースケジュールが確定し、瞬間瞬間でリーダーは必ず1台だけがブロックを生成します。この入れ替わりの速さこそ、距離を追随させる発想が必要な理由です。
なぜ距離が結果に響くのか
金融インフラの歴史では、取引所のメインサーバーに物理的に近いほど有利という考え方が常識でした。ケーブル長に応じてサーバー料金が変わるそうです。光は速いですが、無限ではありません。距離が短いほど受信も送信も素直に速くなります。ブロックチェーンでも原理は同じで、違うのはSolanaの生成点が世界各地へ移ろうことです。ニューヨークでリーダーが立っている瞬間にニューヨークへ近ければ有利になり、次の瞬間にフランクフルトへ切り替われば、今度はフランクフルトに近いことが有利になります。だから一極集中ではなく、複数の地域に同時に備える発想が要ります。
マルチリージョンの基本戦略

発想はシンプルです。Solana バリデータの多く存在する主要な都市やエクスチェンジポイントに小さな拠点を複数持ち、どの瞬間にも「今のリーダーに最も近い拠点」を自動で使う。ニューヨークのリーダースロットではニューヨークで最速に受け取り送る。次のリーダーがフランクフルトにまわったら、フランクフルト拠点に即座にハンドオフして、その地域での送信を最短経路で実行する。平均値を良くするのではなく、訪れるチャンスを取りこぼさないための構えです。
共有ではなく専有を選ぶ理由
共有ネットワークや共有サーバーは他の利用者の影響を受けやすく、ピーク時に揺れやすいのが難点です。対して専有のエンドポイントやサーバーを複数地域に持てば、混雑を回避しながらバイパスのようにデータを受け渡せます。特に受信側のストリームは距離の影響を受けやすく、ここを専有で最短に寄せることは体感に直結します。送信も近い拠点から専有経路(自分だけが利用するため、共有のスロットリングやキューの影響を受けにくい)で出してこそ、意図通りに着弾します。
「近さ」を測る手順
近さは感覚ではなくデータで判断します。まずエポックの現在地を把握します。RPCの getEpochInfo で最新のエポック情報を取得し、経過したスロット数と残りスロット数の目安を掴みます。続けて getRecentPerformanceSamples から直近の平均スロット時間を推定します。残りスロット数に平均スロット時間を掛ければ、切り替わりまでにおおよそ何秒あるかが読めるため、事前の準備や拠点の切り替え計画が立てやすくなります。
切り替わりが近づいたら、対象範囲のリーダーを getSlotLeaders で取得する準備を開始します。クラスタのノード一覧は getClusterNodes で確認できるため、得られたリーダー情報とノード情報を突き合わせ、公開IPやGossipアドレスを起点に地理的なスケジュールを推定していきます。
このとき注意したいのは、IPの地理情報は誤差や更新遅れがあり、推定が外れることがある点です。地図上の当たりを付けたら、必ず各拠点から実際にpingを打って、往復遅延の基礎値を直接測ることをおすすめします。ネットワークは車でのロードトリップに似ていて、単純な距離だけでなく経路の選び方で到着時刻が大きく変わります。pingはその日の道路状況の混み具合を簡潔に教えてくれる指標です。計測は一度で終わらせず、短い間隔で複数回実行し、中央値で判断するとブレを抑えられます。
こうして得た結果は都度使い捨てにせず、拠点ごとの計測値や対応関係を自分のデータベースに蓄積し、エポック更新のたびに軽量ワーカーで差分更新していくと、日々の運用が安定し、判断も速くなります。
データベースとワーカーで仕組み化する
毎回ゼロから計算していると、せっかくの速度が計測で目減りします。実運用では、リーダーと地域の対応や各拠点からのレイテンシを自分用のデータベースに蓄え、エポック切り替わりのたびに専用ワーカーで更新します。実行アプリケーションはそのデータベースを参照して「今はどの拠点を使うか」を瞬時に判断するだけにしておくと、素直に速くなります。受信系はストリームの提供元に寄せ、送信系は次のリーダー地域へ早めに身構える。役割を分けると全体の合算レイテンシが落ちます。
ミクロの最適化とマクロの設計
各拠点のサーバーは高クロックCPUとDDR5メモリ、最新世代のNVMeを標準にして、常時の使用率を低めに保つのが基本です。ミクロの最適化が前提にあってこそ、マルチリージョンの設計が効いてきます。マクロ側では、専有エンドポイントとサーバーを同一ネットワークにまとめ、外部インターネットを跨がない「ゼロ距離通信」を極力増やします。拠点間の中継もRPCを介した一般経路よりも自分だけの専有経路のほうが、ハンドオフ時の待ち時間を詰められる可能性が上がります。
実装とサポートについて
ここまでの流れは、トレーダーの直感とも矛盾しないはずです。近いところで受け取り、近いところから送る。そのために、近いところが刻々と変わる現実へ合わせて、自分のインフラを複数の地域へ広げる。必要なのは最新のスケジュールを把握する小さな仕組みと、拠点の置き方の設計です。私達はトレードや金融的な助言は行いませんが、ビルダー(開発者)の視点から、データの往復をどうすれば最短にできるかについては具体的にお手伝いできます。自前のデータベースやワーカーの設計、拠点配置、専有エンドポイントの整備、都市間の受け渡しなど、現実的なところから一緒に進めていきましょう。
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